「あなたは大海原にポツン、と漂う、一艘の小船に乗っています。

 喫水線は水面ギリギリ。これ以上何も乗せられそうにありません。

 ところがすぐ傍で、溺れて死にそうな人が『乗せてくれ』と叫んでいます。

 さて、あなたはどうする?」

「見捨てる。」

 

「その人は、あなたの生涯で一番大切な人です。」

「・・・乗せる。」

 

「二人で溺れ死ぬ?」

「いや・・・」

 

「一人で溺れ死ぬ?まあ自己犠牲。」

「違くて!だから、溺れ死にそうな奴を一度舟にあげて、その間俺は泳いでる!

 で、俺が疲れたら交代してもらって・・・岸につくまで、繰り返し。」

 

「ふーん・・・っていうか、有りなのかしら、それ。」

 

「大丈夫だって!

 俺もお前も、泳ぎ得意だろ?」

 

「ふんふん。・・・って

 え?」

「あ゛。」

 

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」                                                           

 

072:喫水線